紫乃さんサイド。
妙に長くなりすぎましたが多分、これは 前 編 になるかもしれません。
後編書かないかもしれないんですが(苦笑)。
んじゃタイトルは 「イノセントワールド」にでもしますかね~。
(これもブランド名)
あ、そうそう今回オリキャラが出てきます。
苦手な方はご注意を。
内科医の橋爪紫乃はその日、信じられない経験をすることになる。
「やだやだやだ、絶対嫌だ!」
『それ』を切り出された時、目を見張った。そして今までに振ったことのない最速のスピードで首を左右に動かして否定の意を表した。
「そこを何とか」
「ね? お願い、紫乃」
目の前には二人の妙齢の美女。波打つ栗色の髪をした姉と、真っ直ぐな黒髪の妹。その二人が橋爪に向かって拝み倒さんばかりの勢いで迫って来ていたのだった。
「紫茉…」
「どうしても嫌?」
橋爪は隣の姉を振り返った。橋爪の困った顔を見て姉は、仕方ないと言わんばかりに苦笑している。彼女は、橋爪が女顔に若干コンプレックスを持つことを知っていたからだった。
双子の目の前に居る女性二人は、実は橋爪たちの従姉妹だった。
都内でファッションブランドの店を経営している彼女たちに、いきなり呼ばれたのは休みの日の朝。
姉共々、従姉妹のマンションに出向いたところで『あるもの』を差し出されて懇願されたという訳だった。
「店番をしろって言うのはいいよ! でもだからって、何で私が女装しなくちゃいけないんだよ!」
従姉妹たちの手の上には、生成がかった白の服───ゴシック・ロリータのワンピースが載っていたのだった。
従姉妹たちはゴシック・ロリータの服や小物を専門に扱う独特なショップのオーナー兼、デザイナー兼アーティストだった。
医者である橋爪には何のことかは全く理解できないが、開店して数年、今では業界内ではそこそこ名が知れたブランドになっているらしい。
彼女たちは自分たちで作る服や靴の他にも、海外ブランドと提携した商品も取り扱っていた。
そんな二人が橋爪に店番を頼むなんてことは今までに一度もなく、そしてこれからも無いと思っていたのだが───今回こんなことになった原因は、急遽、英国の某有名ブランドから声がかかったというものだった。
この重要な契約が上手くいけば、従姉妹は英国ブランドの国内販売独占権を手に入れることが出来、かつ自作の商品を先方の店舗で扱ってくれることになるのだそうだ。
それが大切なことは、説明されて橋爪にも理解できた。英国ブランドの側が、姉妹の才能を高く評価していて、「是非二人揃っての渡英を」と言われていることもだ。
しかし運悪く、従姉妹の店の店員が食事に行って同時に食中毒になってしまっていた。他のスタッフで残った一人は親族の訃報で急遽地方へ帰省し、あと一人は兄の結婚式に合わせて家族共々先週から海外へ行ってしまっている。
そのため今日一日、店員が一人になるというのだ。
明日になれば代わりのスタッフが入ってくれるから今日だけはと言われるのは分かる。
だがどうしてそれが橋爪の『女装』に繋がるのかが分からなかったのだった。
「私は身長177もあるんだよ!? 似合うわけないでしょう!」
「大丈夫、私175だもん。私の貸すから」
そう言うも、従妹にさらりと否定された。
「だってウチの店はこれが売りなのよ」
「そうよ。店員自ら着るのがポリシーなの。譲れないのよ」
「でも」
「…まあ私も着るし」
「紫茉!」
既に爪を黒く塗り始めていた紫茉が、手に息を吹きかけながらそう言った。思わず声を上げた橋爪に、紫茉はマニキュアの瓶の蓋を締めながらさらりとある提案をした。
「じゃあ一度やってみたらいいんじゃないの」
「え?」
「紫乃は自分に似合う筈がないから恥ずかしくって着たくないって思ってるのよね? だったらこの服を着てみて、それで心底おかしいと思ったらやめればいいのよ。そうしたら紅音も翠も勧めないわ」
何か論点が違う気がした。
しかしそう言えずぱくぱくと口を動かすだけの橋爪に、「そうよね」「それがいいわ」「いいでしょ?紫乃」と姉の紅音と妹の翠が矢継ぎ早に同意を求めてくる。
そして橋爪がうなずく前に、沈黙は同意と言わんばかりに、そうしましょうと勝手に意見を一致させた女性たちによって橋爪は着替えされられてしまったのだった。
───そして。
「どう?」
「………」
身長よりも遥かに高い鏡の前に立たされた橋爪は言葉を失っていた。
腕やら腰やらはやたらに身体にフィットしているというのに、スカートだけは大きく広がっている。その下にはテニスのスコートを強調したようなモノを穿かされた。下着だけは何とか死守したものの、ご丁寧に絹の長い靴下を用意されていた。
しかも頭にはレースがひらひらした帽子。赤ん坊か西洋人形が被るようなデザインのそのリボンの先は、顎の下で結ばれていた。くすぐったいなと思えども外しては駄目だと言われてしまっている。
ワンピースは生成と言うよりもよく分からない色をしていた。ああこれはもう少し濃くしたらカフェラテの色だなあと呆けかけた頭でそんなことを考えた。それよりも少しだけ濃い色のジャケットを羽織って完成。
「変?」
「…そんなことは、ないけど」
隣から、全身黒に紫の色が入った服に身を包んだ紫茉がひょっこりと姿を現す。その唇は妙に真っ赤で目のフチは黒くて、橋爪は内心姉が小悪魔のように見えて怖いと感じた。
しかしその姉は、いっそ堂々としていてよく似合っている。そしてその姉と酷似している顔で白バージョンの人間が、今鏡に映っていた。自分と言う訳である。
「あーもう素敵よ紫乃! 写真撮りたいぐらい」
「折角だから撮りましょうよ」
ここで否定をしたら姉をも貶すことになる。そう客観的に判断出来るほどに、化粧をされた橋爪の姿は違和感がなかった。
敗北感にガックリと項垂れる橋爪を前に、従姉妹二人は盛り上がっている。その様を止めてくれたのは、黒服の紫茉だった。
「そんなことしてる暇ないわよ。あなた達、飛行機の時間はいいの?」
「あ! そうだった。もうこんな時間!?」
「行かなきゃ。じゃあ紫茉、紫乃、お願いね。店の子には連絡しておくから!」
そんな感じに紅音と翠はスーツケースを引っ掴むと部屋から慌しく出て行った。後に残されたのは、白と黒の双子ふたり。
「…紫茉。これ脱いでいい」
「ダメよ」
「何でだよ」
ためらいがちに切り出した橋爪の訴えを、紫茉は容赦なく切り捨てた。橋爪はくちびるを尖らせて、姉をじとりと睨めつける。
「紅音と翠のことよ、後で店員にチェック入れるに決まってるわ。あの子たちが帰ってきて、『何で着てくれなかったの、紫乃ー!』ってまた泣き付かれたいの?」
「………」
橋爪は返す言葉がなかった。
従姉妹たちは確かに可愛いし困っているなら助けてやりたいと思うほどの付き合いもある。それにこんな格好をさせたことを除けばとても好感が持てる性格なのだ。
彼女たちの夢も仕事への情熱も、幼いころから聞いて理解している。だがそれ以上に、橋爪は従姉妹の涙に弱かった。たとえ泣かれた後にケロッとして笑っている性格であっても。
「いいよもう…」
「諦めた?」
「ああ。もう何とでもなれ。その代わりバレても知らないよ」
やけくそのようにそう呟いた橋爪に、何故か紫茉はにっこりと笑った。
「それなら」
「?」
「───写真撮らせて、紫乃。さっきは阻止してあげたけど、私にならいいでしょ?」
紫茉の手にはどこから出したのか、デジカメが握られていた。完璧な角度で吊り上った真紅のくちびるの前には、橋爪は成す術もなくただ固まることしかできなかった。
そんな調子で姉妹に指定された店に出向いた。
唯一残っていた店員は幸いにも顔見知りだったため、橋爪は若干緊張を解くことが出来た。何故か店員の彼女には絶賛されたが、橋爪は腑に落ちなかった。彼女は橋爪が男性だということを失念しているのではないだろうかとすら思った。
活発な姉の紫茉と違い、橋爪は接客業の経験も無い。何も出来ませんがと恐る恐る切り出した橋爪に、店員は明るく笑って言った。
「大丈夫です、紫乃さんはレジ打ちだけして頂ければいいですから!」
「そ、そうですか?」
力強く言われてようやく橋爪にもぎこちない笑顔が戻った。
こんなに綺麗なんですからと言った言葉はきっと空耳に違いない。実は橋爪は内心レジ操作すらも出来るかどうかが不安だったが、とにかく店は開店したのだった。
平日と言うこともあり、そこまで客は多くない。それでも時折話しかけられて身を硬くしたものだったが、そのたびに店員と紫茉がフォローしてくれた。
そして一番驚いたのが、誰もが橋爪を男と気付かなかったことだった。
「そりゃそうよ」
「どうせ私は女顔だよ」
バックヤードで昼食をつつきながら不貞腐れた橋爪に、紫茉は「違う違う、そうじゃなくて」と笑った。
「人間の脳ってのは不思議なもので、『女だ』って思い込むとそうしか見ないってことよ。分かるでしょ」
「ああ、そうだったね…」
紫茉は外科医、紫乃は内科医で共に医者だった。それゆえに脳の錯覚なども勉強して知っていた。そうおぼろげに思い出しながら頷いた橋爪に、紫茉は更に続けた。
「それに女の子はね、ちょっとでも『女の子かな?』って思う相手にまさか『男ですか』なんてフツー聞けない生き物なのよ」
「そうなの」
「そうよ。失礼になるからね。最大の屈辱よ」
そうなんだ、と思いながら橋爪は弁当のご飯を口へ運んだ。
ところがそんな状況に急な展開が訪れる。
「病院から呼び出しだわー。行かなきゃ」
昼食の直後、紫茉がそう言った。携帯をひらひらと振る姉に、驚きつつも気をつけて、と言うしかなかった。
「悪いわね、紫乃。なるだけ早く戻るから」
「うん、行ってらっしゃい」
しかし橋爪が姉を見送って暫くした頃、「あ」と声が上がった。
「どうしたんですか?」
「いけない、大事な振込みに行くのを忘れていました。紫乃さん、少しだけお願いしていいですか? 私、銀行に行ってきます」
「は、はあ…」
「大丈夫、お客さんはそんなに来ないと思いますから!」
慰めにならないような激励の言葉を残して、店員の彼女は店を出て行った。残されたのは橋爪ひとり。
(どうしよう)
荘厳な店内に一人残されて、橋爪はにわかに不安になった。早く誰か帰ってきてくれと戦々恐々としていると何と客がやってきてしまった。
「いらっしゃい、ませ」
声が引き攣っていなかっただろうかと思った。その後も、「商品について尋ねられませんように」とヒヤヒヤしながら接客をこなした。幸い、誰も込み入った話をせずに服を試着して買って行ってくれた。
そして客が途切れ、ホッとしたのもつかの間。
電話が鳴った。
「!」
慌ててカーテンの奥に飛び込み電話を取る。
雑誌の取材のようだった。電話だと男も女も関係ない。若干力を抜きつつも後日、担当者から連絡させることを約して電話を置くと急にドッと疲れた。医師である橋爪は普段、商業的な電話応対をすることなどあまりない。
「やれやれ。…?」
表に戻ろうかと机に向かっていた身を起こした次の瞬間、ぐいと頭が引っ張られた。何だと思いつつ頭に触れると、ヘッドドレスのレース部分がどこかに引っ掛かったらしいと分かった。釘か何かだろうか。
「何、これ」
何とか取ろうとするものの、ちょうど頭の後ろの部分らしく上手くいかない。両腕を上げて苦戦しても中々外れてはくれなかった。
そしてその時、チリン、と表の卓に置いてある筈の呼び出しベルが鳴った。客が来たのだ、と橋爪は思った。
(うわーまずい!)
しかし焦れば焦るほどより絡んで行くような気がする。そのまま時間だけが過ぎていく。表では客が待っているだろうに。そう思うと余計に進まなくなった。
「! 取れた!」
取れるや否や、橋爪は目の前に下りた真紅のカーテンに向かって駆け出して行った。
「すみません、お待たせしてしまって…!」
その向こうに居る人物との出逢いを知る由もなく。
続く…のか?
紫乃さん、服の表現がカワイイかも(笑)。
ちなみに従姉の方は紅音(あかね)、妹は翠(みどり)と読みます。
紫茉紫乃だから、色で統一してみました。
男の従兄弟とかなら蒼一郎とかなんですよきっと(←テキトーだな…同人風というか)。
だって紫乃さんが菌が可愛いんだもん!
素敵だよね!って叫ぶしかない。菌の中心で紫乃さんに萌を叫ぶ。
ていうか私が5秒で描いたのオリゼーだけだったのに。クリソゲヌム(青カビ)までもすごい。
(青カビ描くの難しい)
しかし、小さなちいさなヨグルティに萌えた…!
西脇っ、紫乃さん攫ってやって! (意味不明)
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西橋萌えを語ることが多いかも。