※もう一度言いますが、若干グロ注意。ついでにやや長文。
『僕と契約して、魔法使いになってよ』
つぶらな瞳のあの生き物を助けた時から、石川悠の生活は一変した。
小学校以来の親友・橋爪紫乃と共に、年上の宇崎先輩が魔物退治に同行するようになり、たった一人、命懸けで戦う宇崎先輩を見て思った。ああ、先輩のようになりたいと。
誰かのために戦いたい。それはもう魔法使いになることで願いが叶う。
だからあの言葉は嘘じゃない。
『先輩は一人じゃない』
あのひとは、「ありがとう」と言った。泣きそうに見えた。
それならばすぐに片付けてしまわないと─────そう言って銃を手に取った。いつものように圧倒的な強さを見せた、筈だった。
『せんぱい・・・!』
─────あのひとは、喰われた。
だらりと下がった躰、千切れた首。
鈍い音を立てて『彼であったもの』が地に落下した瞬間、それは確かに石川の何かをも壊したのだ。
生きた存在が『ただの肉塊』に変わった瞬間を目の当たりにして、瞬時に『死』と血の匂いが石川の精神を握りつぶした。
『あ・・・あ・・・、あ』
腰を抜かし、がたがたと震えていた。自分ひとりであったなら、迫り来る圧倒的な絶望の一瞬に我を失って狂ったか、下肢を濡らしてしまっていたかもしれない。
目を閉じても開けても変わらない現実。化け物の下に広がる宇崎先輩の血沼。瘧のように震える身体、隣の親友は理性を崩壊させたように泣いていた。両頬を濡らす涙に、人ならぬ生き物は言った。
『このままではやられる。紫乃、悠、どっちでもいい、僕と契約を! 早く!』
魔法使いになる?
今、ここで? そしてあの化け物と戦う?
宇崎先輩を殺したあいつと?
─────出来ない。
あの輝くような先輩を倒した奴を、こんな自分が?
出来るわけがない。つい先刻、先輩と同じ魔法使いになって戦うと言ったのに、すでに心と全本能がそれを裏切っている。先輩への罪悪感よりも恐怖が遥かに勝った。
奇跡なんてないの?
こんなに怖い、闇─────闇そのものだ。それを乗り切る希望が一欠片も見当たらない。
『早く!』
魔物の結界に、けたたましい使い魔の哄笑が響く。
狂女のそれにも似た笑いは、辛うじて繋ぎ止めていた石川の幸福感の塊を、少しずつ砕いていった。
こんなに世界が壊れているなら、自分も壊れてしまえばいいのか。自失した中でそう思った。
そんな中、絶体絶命の危機を救ったのは、数日前にやって来た転校生だった。
そいつは至極あっさりと魔物を倒し、その卵を奪って去って行った。
橋爪と石川は重い空気の中、帰路に着き数日を過ごした。
橋爪の姉、紫茉が二人を心配していたが到底真実を話せるものではなかった。
一度味わった原始的な恐怖という本能は二人に深く根を下ろした。
何気ない日常の幸せに涙を落とすほど、戦う者『以外』の人間は何も知らない。知っているのにそれに背を向けることは最大の欺瞞で、裏切りのような気がした。
何に? 誰に?と問われても漫然としていて、答えることが出来なかったのだけれども。
失われた宇崎は両親も亡く、このまま行けば世間的には失踪ということで片付けられるだろう。それも不名誉な。
それも歯がゆかった、悔しかった。それ以上に恐怖におびえ何もしようとしない自分が憎かった。
橋爪は幼馴染の片恋の相手が入院しており、「もしその手を治すことが出来たなら」と少なからず思っていただろう。
だが『あれ』を見せられた後では─────あれを『命懸け』と言うのであれば、それを代償にしなければならない唯一の願いとはなんと強いものなのだろう。
そんなに強い想いなんて持っていない、と逃げたかった。
それなのに。
使い魔の結界に迷い込んだ石川の前に現れたのは、選りにもよって親友だった。
・・・見たことのない姿をした。
「・・・紫乃・・・」
体に貼り付いたビスチェの青、紺色のショートパンツに白い膝上ブーツ。手にはサーベル。動くたびに風のように舞う肩衣。
彼の剣はいとも簡単に使い魔を切り裂いた。
なぜ、と声を掠れさせる石川に橋爪は誤魔化すように笑った。ほら私、やっぱりこういう性分ですから、と。
石川を助け起こした橋爪は綺麗なのだけれどもどこか寂しいような微笑みを浮かべていて、彼が何を代償にしたのか、石川はその重さを尋ねることが怖いと思った。
その時、再び襲ってきた使い魔。
「! 悠、下がって!」
橋爪は躊躇なく、使い魔に剣を向け、走り寄ってゆく。
風を切り、捉えるであろうと思ったそれは剣戟によって阻まれた。
「な・・・っ!」
火花が散ると同時に、使い魔が空の彼方に逃げ去ってゆく。
一体何が。そう思った時に、暗闇の向こうから低い声が流れて来た。
「何をしてる?」
砂利を踏む音と共に現れた、見知らぬ顔。
「馬鹿か。あいつはグリーフシードを持ってないただの使い魔だ。そんな奴を仕留めたって魔力の無駄になるだけだろう」
短い髪の男だった。
悠々と煙草の煙を吐き出しながら、彼は橋爪の前に姿を現した。橋爪とは違いごく普通の格好をしているが、手には、宇崎の長銃とは違う武器─────槍のようなものを握っている。
「あなた・・・誰」
「誰だっていいだろう? お前と同じだよ、俺も」
自嘲しか載っていない声音でそう落とし、彼は嗤った。
「なぜあれを逃がしたんですか!」
「卵を産むニワトリを絞め殺してどうする? ・・・これだから素人は」
「・・・え?」
橋爪の責難にも、彼はうすく頬をゆるめただけだった。
そしてもう一度息を吸い込む。暗い路地裏に、煙草の赤い光が明るく輝き、そして明度を落とした。
訳が分からないという顔をする橋爪と石川に、彼は馬鹿にしたように答える。いかにも渋々と。「使い魔を殺っても何の得にもならん」
「お前は食物連鎖も知らないのか。魔物は人間を喰らう、俺たちはその魔物を喰らう。強い者が弱い者を喰うのは当たり前だろう? 使い魔に四、五人食わせて魔物にしてから倒せばいい」
「・・・あなた、一体、何を・・・」
呆然とした。
この存在は何だ? 彼は『同じ』と言った。
ならば彼はあの宇崎や、今の橋爪と同じ戦う者なのだろう。だがこの『他人のことなど一片すらも考えていない』冷酷さは、もはや。
「使い魔でも放っておけば他に被害者が出るのに!」
「だから?」
・・・人間、なのだろうか?
「宇崎もつまらん奴にやられたもんだ。ただの足手まといを連れ歩いてお遊びの果てとは、笑わせる」
「!」
呆然としている橋爪と石川に聞かせるつもりがあるのかないのか、彼が感情なくそう嘲る。その言葉に、橋爪の眦が吊り上がった。
「お前、よくもそんなことが!」
橋爪の剣が男に向けられる。先刻、空間を切り裂いた純粋な力、それが彼を弾き飛ばす、石川はそう思った。
「宇崎先輩は、この街の皆を守るために・・・!」
ところが橋爪の剣は、男の片手一本の槍先に留められていた。
「紫乃!」
力の差は歴然としていた。
両手で剣を握り、全力を掛けている橋爪に対し、男は涼しい顔をしている。
「・・・ッ!」
「何。あんたあいつのために怒ってるの? 宇崎は弱かったから死んだんだよ」
「黙れええぇ!!」
「馬鹿馬鹿しい」
興味もなさげにそう呟くと、彼の手が一閃した。
かろうじて堪えたのは二度。三度目には橋爪の身体が投げ出されて空を舞い、コンクリートの壁面に叩き付けられてズルズルと地へ落ちた。
「・・・ふん。他人の為だの正義だのなんだの振りかざす奴を見てると虫唾が走る」
「紫乃!」
「悠、近寄っちゃだめだ!」
「でも!」
石川をとどめたのは、あの生き物だった。
息があるのかすらも疑わしい、橋爪はぴくりとも動かない。その男が橋爪に背を向けて、石川に向かってくる─────石川は息を呑んだ。
「・・・待ち、なさい・・・」
「ほーお」
その時、彼の背後で仄かに青い光が灯り、苦しげな橋爪の声が地を這った。
剣を地に刺しながら、橋爪が立ち上がる。
「全治三か月くらいはぶっ飛ばしたつもりだったんだがな」
見た目とのギャップが激しいな、と男は平然と告げた。
それに対しなお剣を構える橋爪の目は男に向かって注がれている。純粋な憎悪に似た何かに、あの優しかった親友の強い感情に石川は一瞬自分が何処にいるのかが分からなくなった。
これは夢の続きだろうか?
「・・・宇崎さんに、謝りなさい」
「謝る? 俺が? ・・・なら力づくでそうさせてみろよ」
くくっと低く嗤い、男は片手で軽く槍を回した。
「かかってきな。・・・遊んでやるよ」
「紫乃!」
石川が叫んだ時には既に、彼の結界なのか、赤く光る鉄条網のようなものが石川の前に張り巡らせれていた。
それに阻まれ、近づくことも出来ない。
石川から見ても分かる、彼は宇崎と『同じ』だ。あの、強く美しかったあの人と。
場数が違うと直感的に思った。事実、両手で凄まじい剣戟を繰り出す橋爪の攻撃を、眉ひ
とつ動かすことなく受け止めては流し、その力を跳ね返している。
彼の槍の柄は坤のように鎖と棒に分かれ、時として縄のように橋爪の身体を絡め取っては壁や地に叩き付けた。一度、二度。
「やめろ、やめさせてくれ!」
「無駄だよ。魔法使い同士の戦いには魔法使いでないと介入できない。でも一つだけ方法があるよ、悠」
「え・・・」
「君が魔法使いになればいい。僕と契約して」
─────契約する。
「黙って見ていたら紫乃はやられるよ?」
─────あんな風に、宇崎先輩のように、死んでしまうかもしれない。
「・・・俺は・・・」
ああそれでも。石川が迷う間にも魔法使い同士の戦いは続く。魔物を狩るものでもなく、人を救うためのものでもない、感情を裂くような戦いが。橋爪の見えない慟哭が感じられた。
「死にな」
西脇が笑った。
鉄の鎖が孤を描きながら回り、その槍先がたった一人、倒れ伏した橋爪に向かう。
「俺は・・・!」
奥歯を噛みしめた。
ふるえる胸からそう絞り出し─────続きの言葉を吐き出そうとした瞬間。
「それには及ばない」
聞いたことのある声が、路地に響いた。
・・・的な?
(台詞は結構うろ覚えだからゴメン)
いや、こうなってしまうと、ほ○らちゃんが岩瀬なんだけどw
ちょっとそれはいいような、イヤなような・・・。
でも京○と、さ○かの戦いが西橋だったらv とか思ったんで。
ほむまどじゃないのかよ!と言われそうですが、ええ、それもいい。
ほ○らが西脇でしょ! そんでま○かが紫乃さん。
でも、ま○かが紫乃さんなら、性格上自己犠牲全然躊躇わなさそう・・・。
ちなみにこの話は続きませんし、京○が西って、背後関係合わなさすぎ。父親が内科医じゃなくて神父(牧師ではなく神父らしい)だし・・・。だいいち彼は他人のために魔法少女にならないし!
でもこの話なら、恭介=陽で、手が治ったら紫茉さんとくっついちゃう。
けど二人とも死んじゃって紫乃さん絶望→魔女化?とかかなーと。
だいたい17~8歳くらいがいいな。
(西脇はセーターにジーンズみたいな設定でよろしく)
主人公組だったら悲しすぎるだろ・・・。
「西脇さん。私は・・・やっと分かりました。叶えたい願い事を見つけました。だからそのために、この命を使います」
「何度繰り返すことになっても、必ずお前を守ってみせる。紫乃」
とか?
※書きません