「委員会がみてる」、完結編第二話。
時折、もう何ですかこのポエムと言いたくなるけどそこは我慢。
SSSは楽しく書いてナンボなので、あまり気にしないでいきましょう。
いいの私が一番気にしてるから(笑)。
己を追い詰めるのは原稿だけで充分だ(苦笑)。
「ドクター橋爪」
巡回の途中、議事場の外庭でのことだ。
呼ばれて振り向いた。そこには顔見知りの国会議員が笑顔で橋爪を待っていた。
二世政治家ながら、人格者として若くして要職についている人物でもある。なにか、と無礼にならぬ程度に橋爪は問うた。
すると彼は、あるものを橋爪に差し出してきた。
バッジだ。
「…これは」
「どうか、私の弟(フレール)になっていただけませんか」
「石田議員(せんせい)。申し訳ありません…その、先約がありまして」
驚いたものの、丁寧に断りの返事を入れる。すると彼は少し口を噤んだ後、「残念だな」と悔しそうに微笑した。
その後姿を見送って、橋爪は踵を返した。
「おかえり」
医務室に戻ると、そこには西脇が居た。
橋爪のいつも座る椅子に腰掛けて、外を眺めていた。ギシリと背もたれを軋ませて、どちらが主か分からぬように肩越しに振り返る。
「いらしてたんですか」
「ああ。ちょっと手が空いたから」
───期限付きって言ってなかったかな。このひと、何でここに入り浸ってるんだろう。
そう思えるほど、西脇は頻繁に医務室を訪れるようになった。
以前は二、三日にと思えるほどだったのに。今や、顔を見ない日はない。
橋爪がバッジを受け取って二ヶ月が経っていた。
西脇が来るたびに珈琲をねだるのはいつものことだったが、個人的な話をする機会が増えたように思う。これが兄弟と通常の友人との違いなのだろうか。
「ドクター?」
「ああ、すみません。珈琲淹れますね」
そう、思考を断ち切られた橋爪は顔を上げた。
すると西脇がふいに、尋ねてきた。
「さっき、石田議員と何話してたの」
見てらしたんですか、と目を白黒させると、「まあね」と答えられた。
軽く驚いた橋爪に、西脇はなんともいえない笑みを寄越す。
「…。弟にならないかと…」
「ドクターは俺の弟だよね」
「ええ」
───あなたが本気になる相手が現れるまでの。
心の声は漏らさなかった。だが西脇は何が面白くないのか、わずかに眉を寄せた。
それを見ないふりをして、橋爪は珈琲サーバーを置いた棚へ向かった。西脇に背を向けて、豆をセットしカップを用意する。いつもの流れだ。
その間、西脇は黙っていた。
だからそこに座っているのだと思っていた。
「?」
ふいに手元に影が落ちる。橋爪が振り返ると、すぐ後ろに西脇が立っていた。
何だろう、と思うと同時に驚かずにはいられない。ぴったりと、橋爪の背に身を重ねるかのように立っていたのだから。橋爪は手を止めた。
「にし」
「ドクター」
すっと、西脇が降りてくる。
「!」
両腕の、上腕に彼の掌を感じる。
心臓が跳ね上がった。
彼の、香でもなく汗でもなく、ひとが近づいて初めて感じる馨りのような温度のようなものを肌で感じた。まるで後ろから抱かれているみたい。
あの、と漏らそうとした。でも声は出なかった。
ただ顔を斜め後ろを見上げる。すると、わずかに目を下に遣った彼が見えた。
表情は見えない。何がしたいのか。
「…にしわきさん」
声は掠れていた。
それで西脇の手がすっと伸びて、珈琲メーカーを止める。その瞬間、呪縛が解けたような気すらした。
「出過ぎる」
「…あ」
「余計なことだったかな」
「いえ」
何故か頬が熱かった。今のは何だろうと、落ち着かないままにそう考えた。すると軽い音がした。無線のそれだ。
「西脇だ。…わかった」
すぐ行く、と継げて西脇は無線を切った。
「悪いドクター、呼び出しだ」
「ええ…」
「珈琲はまた今度」
そう言って一度、橋爪の髪を梳く。それが空に浮き、落ちぬうちに西脇は橋爪から離れて部屋を出て行った。
ひとりになった橋爪は。
呆然と、その姿を見送った。何かがおかしかった。自分の早鐘を打つ心臓だけではなく、何と言うか、その、西脇から放たれていた無言の空気に充てられたような。
───キス、されると思った。
橋爪は熱を持った頬をよそに、くちびるを押さえた。
どこか変だと、声なき声が自分に訴える。
まるで全身で、西脇は橋爪を絡め取ろうとしているかのように思えた───なんて。
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「委員会がみてる」、まだ続きます。
多分、あと2話は。
実は次回から一気に話がシリアスになったり。
原作既出、ただし西橋ではノーチェック、多分他の西橋さんの中では一度も出てきたことのない人物が出てきますよ。
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西橋萌えを語ることが多いかも。