──それは一話で収まらなかったからです。
「委員会がみてる」、シリーズ完結編。
何話になるかは分かりませんが、2~3話ではないかな。
中々強引な展開ですがまあ、頑張ろうかなと…。
ていうかこれはギャグコメディな筈だったのに何故こんなことに、という感じになります。
むしろ本家の、「マリみて」って完結?してたの?それを知らなかった。
※この話では、兄、弟は「フレール」、兄弟制度は「フレールシステム」と呼びます。
あなたが好き、だなんて。
何でそんなことを今更思ってしまったのだろう。自覚してしまったんだろう。
「ドクター」
橋爪は両手でくちびるを押さえた。頬が熱い。
どきどきと勝手に早鐘を打つ心臓が、凄い勢いで血液をからだ中に送り出して行く。それは口を押さえた手の、指先に満たされていこうとしていた。
もしかしたらその血液自体も温度が上がっているかもしれない。あるいは、流れているのはそれだけではないかもしれない。
「ドクター? どうかしたの」
「…いえ。どうぞ、お入りください」
かろうじてそれだけを答えた。
西脇の顔を見ることが出来ずに橋爪は扉に背を向ける。
空気圧の働く音がした。扉が一度開いて、閉まる。西脇はその前に立っているだろう。
だが橋爪はどうしても振り向くことが出来なかった。
未だ、暴れ出そうとしている心臓を抱えていたから。
「珈琲ですか。丁度新しい豆を開けたばかりで───」
「ドクター、こっち向いて」
なるだけ平静を装ってそう言った。
橋爪は西脇から距離を取ろうとするかのように、棚に向かって身を翻す。
未だ頬は熱い。それを自覚しているのに、橋爪の取り繕いを遮るように西脇はそう言ったのだ。
ここで振り返られないと、変に思われる。
こくん、と橋爪は一度息を呑んだ。
「…どうかしましたか、西脇さん」
「この間のことだけど」
西脇は、そう言って固まった橋爪の許へ歩み寄った。
彼が近づいて、橋爪の髪に触れる。間近に迫る西脇の顔。ダメ、これ以上近づかないで欲しい。
「西脇さんは」
橋爪は咄嗟に、口唇を開いてそう一気に言った。まるで、言葉を己の身を守る盾にするかのように。
「西脇さんは、あの時通った人だったら誰でも良かったんでしょう?」
その言葉に、西脇の瞬きが消える。
橋爪の頬横の髪を一房、指に取ったまま固まったようにその動きが止まった。
沈黙が、医務室に満ちた。
橋爪は言ってからしまったと思った。
これでは、『誰でもよかった』 扱いに拗ねているみたいではないか。
誰でも良いうちの一人、と思われたのが嫌なのだと聞こえてしまってもおかしくないだろう───しまった、と思った。
でも今更取り消せやしない。慌てて橋爪は言い繕った。
「え、っと、あの、そうではなくて。そんな重要なことは私には荷が勝ちすぎるというか!
決して面倒はゴメンだとかトラブルに巻き込まれたくないとか、そう思ったわけではなくて、その!」
「巻き込まれてくれないんだ」
「え」
さらりと落とされた疑問に橋爪は目を丸くする。
そのまま西脇はじっと橋爪を見つめてきた。
まるで巻き込まれて、と言わんばかりの視線が圧力となって橋爪をじわりと押す。
西脇から滲み出る何かが橋爪を捕えて、動くことができない。
橋爪の頬を、上げたまま指先がわずかにくすぐった。
何故西脇は、頬を撫でるかのようなそんな動きをするのだろう。
「あ…の」
「この間のあれは」
橋爪の、何とか場を取り繕おうとする努力を遮って西脇は言った。
先日の会議で重要な議題を決めていた際に、クロウに「弟の居ないお前に言われてもな」と言われたらしいとは石川に聞いて知っていた。
西脇が特定の兄・弟を持たないと半ば、公言していたのをその場にいた誰もが知っていた。
それなのにクロウは揶揄するように言ったのだそうだ。
「クロにけしかけられなくても、俺も色々言われるようになって。いい加減うっとうしく思ってたところだったんだ」
丁度良いかと思って、と彼は続けた。
西脇は少し身を屈めて、橋爪の目の高さに己がそれを合わせてきている。
それを外さぬまま告げられて、橋爪は何故か、居心地悪く頷くことしか出来なかった。
「…そうでしたか」
「でもドクターなら」
「?」
「ドクターなら巻き込まれてくれそうだと思って」
「そ、れはどういう」
「誰でもいいって訳じゃないよ」
分かる、と問いながら西脇がじっと橋爪の目を覗き込む。更に距離が近づいた。
「その、に…しわきさんには、もっと良い方がおられるのでは? 羽田とか池上とか」
「あー…あれはもう交換してるみたいで、駄目なんだ」
「そう、ですか」
だから、と西脇は継いだ。
「もう一度返事を聞かせてドクター。俺の弟になってくれる?」
───とん、と橋爪の背中がポスターの貼ってある壁に触れた。
いつの間に壁際に追い詰められていたのだろう。
逃げ場を無くした橋爪は、息を呑んで外警班長の彼を見上げた。
(これって)
まるで告白のようだと思った。
静まりきった室内に、落ち着くことのない鼓動の音が響いてしまいはしないかと、そんな的外れな心配をしてしまう。
西脇の濃い色の瞳がまっすぐに橋爪に落とされる。
友人だと思っていた。親しい関係を築けていけていると。そしてその居心地の良さに、橋爪は誰を重ねただろう。それはあの、髪を切った時に覚えていたのではなかったか。
それでも、それを忘れようとしていたのではなかったか。
でも今や、箱に仕舞ったはずのその想いの蓋は開いてしまった。他ならぬ、この男に開けられてしまったのだ。兄弟のバッジを差し出すことによって。
そして西脇はその蓋を閉めることなど決して許してはくれないだろう。それ以前に蓋が開いたことを知られてはならない。
もしここで橋爪が「否」と答えたなら。
彼は次に、どんなカードを切ってくるのだろう。
───それを知りたくない。
橋爪に答えはひとつしか用意されていなかった。
「わ、私…でよければ」
喉がからからに渇いていた。
しかし、西脇が口の端を緩めるよりも先に言っておかなければならないことがあった。
「でも。西脇さんが、本当にそうしたくなる人が出来るまでなら」
「………」
あなたに協力しますと告げた。
すると西脇は一瞬、本当に一瞬だけ困ったように目を細めた。だが瞬く間にその目にいつもの光を宿し、太い笑みを見せてきたのだった。
「いいよ、契約成立ね」
───すい、と西脇がその身を引く。
そしていっそ潔く、胸元のバッジを外した。「手、出して」言われるままに橋爪はぎくしゃくと片手を差し出す。
すると西脇は左手で橋爪の手首を包み、ぐいと引き寄せた。あ、と橋爪が漏らす間もなく右手でバッジを橋爪の手のひらの、真ん中に置いた。
「………」
その、軽いはずの金属は仄温かく、どこか甘い疼きを持って橋爪の心にも落ちてきた。
ぎゅっ…とそれを握り、胸に引き寄せる。
ただの契約でもいい、放したくない。それでも、どこか、つらい。
そんな心持を表すかのように。
そんな橋爪に西脇は笑って言った。
「じゃ、俺のことはお兄さまって、」
「呼べませんっ!」
橋爪がすぐさま反論すると、それで張り詰めていた部屋の空気が解けた。
「だと思った。普段通りでいいよ」
そう、その時はそんな彼の態度に安堵したのだ。
常と変わらない、どこか飄々としつつも橋爪を翻弄する男の姿に。
****************
むしろ何故、シリーズ。
前回とちょっと繋がってなくても、まあ許してくださいまし。
今日はBGMが浜崎の結構ラブっぽい感じだったから、大分内容が暗くならないでマシだったのか。
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西橋萌えを語ることが多いかも。