category:萌え(SSS込み)
こういう場所でしか出来ないと思うね。
だから書いちゃいます。
───なにこれ、信じられない。
橋爪は呆然と周囲を見回した。
石造りの高い建物の最上階、その上で意識を失っていた。あの黒髪のウサギ男は何処にもいない。紫乃をこの世界に無理矢理つれてきた、人の話を聞かない変態。
起き上がって天井を見ると丸いドーム型の石造屋根が見えた。周囲をぐるりと囲むのはガラスの無い窓。
階下に至るには階段が見える。そこに目をやった途端、足音が聞こえてきた。
さてはあの、胡散臭い眼鏡をかけた長髪のウサギ男が戻ってきたのかと思った。
ところがそれに反して現れたのは、違う青年だった。
「なんだ、まだ居たのか。私は忙しいんだ。…さっさと帰れ」
濃紺の髪と瞳を持つ彼の胸元には大きな金の時計が光っていた。
うんざりしたようにそう言う彼に、橋爪は苛立ちを覚えた。
「…。帰りたくても帰り方が分からないんです。私はあの、アレクって人に無理矢理穴の中に連れ込まれて…」
「───なに!? お前、もしかして余所者か!?」
途端に彼の顔色が変わった。
仕方なく橋爪は経緯を説明した。病院の庭、木の下でうたたねをしていたら服を着て歩くウサギが現れたこと。そのウサギが人間になり、橋爪を抱き攫って穴の中に飛び込んだこと。
そして目が覚めたらこの場所に居たこと。
「…で、その…薬を飲まされて」
薬を飲まされた経緯は思い出したくもない。
あろうことかアレクと名乗ったウサギ男は、口移しで橋爪に小瓶に入った薬を飲ませてきたのだ。
「ゲームの始まりだよ」そう笑って。
その話を濁した橋爪だったが、目の前の彼はそれも既に耳に入っていないようだった。
「あの野郎…私を無視して勝手に余所者を入れたな」
そんなことをブツブツ言っていた。
「あの…ここはどこなんですか? 私は帰りたいんですけど。あなたは帰り道を知っていますか?」
「ここは不思議の国だ。お前の世界とは違う」
「…はあ?」
橋爪が尋ねると、爪を噛まんばかりに独り言を呟いていた彼がようやく顔を上げた。
「お前の戻し方は私も知らない。一人で帰ることは出来ないんだ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
慌てて手を振ると、濃紺の彼は驚くほど真剣な顔をして橋爪を見つめてきた。
こうして見ると、すっきりとした顔をしている。切れ長の目も濃紺色の瞳も、どことなく育ちの良さそうな立ち振る舞いも、硬質で清美なもの見えた。
「お前は小瓶の中身を飲んだのだろう?」
「…ええ…無理矢理でしたが」
「ここはお前の言うところの『異世界』だ。その扉を司るのが私。本来ならば、私の許可なくして異世界からの者───『余所者』は入国できないんだ」
「だったらあなたが帰してください」
「話を最後まで聞け。本来ならば、と言っただろう。ルールが破られたからお前はここに居るんだ」
「この世界はゲームで出来ている」
「……はい?」
「ゲーム。
何もかもがゲームという理(ことわり)の上にあり、何人たりともそのルールを逸脱することは許されない。
『余所者』はこの世界に本来居ないはずの者だが、ルールの遵守義務に例外はない。ルールは絶対なんだ。そしてお前のゲームはもう始まってしまった」
なんだかよく分からない。
「………」
黙り込んだ橋爪の前で、彼は信じられない言葉を継いだ。
「小瓶の薬を飲まなければ、まだ道はあったのだが…」
「! 何ですかそれ!」
思わず橋爪は彼の襟を両手で掴んでいた。
「あの変態ウサギが私に無理矢理飲ませたんですよ! 私はいわば被害者なんです! それなのに!」
「く…くるし…っ」
がくがくと揺さぶると、彼は足掻いた。見た目に反して力のある橋爪が激昂していたのだから逃れようがなかったのだろう。次第に顔を青くさせていった。
「ま、まだ、続き、が…」
「あ、すみません」
橋爪が手を放すと、彼はぜいぜいと息を切らしていた。
「………。とにかく、お前のゲームは始まった。ルールがあり、お前はそのルールに則らなければ帰れない。私は戻してやることが出来ない。そういうことだ」
「そんな!」
あっさり結論付けられて、橋爪は悲鳴のような声を上げた。
すると彼はまた掴みかかられてはたまらないと、「だからそういうものなんだ!」と後ずさって距離をとる。何かに怯えたかのような後ずさりぶりだった。
「…あれ、でもさっきはルールが破られたから私はここに居るって」
「もちろん守らなければならない。だが時折破られることもある」
「? …意味が分かりません」
「お前を連れ込むために、アレクはルールを破った。
ひらたく言えば、この世界ではルールを破り、それがあまりにも重い罪だとゲームから降りなければならない。お前たちの世界で言うと…そうだな、マッサツされるようなものか」
「抹殺ですか」
「意味は私もよく知らない。ともあれ、アレクはルールを破ったが、そこまで大きいものではなかったということだ。そしてお前のゲームに関して言えば、破れるルールはないということになる」
小瓶を見てみろ、と言われて手の中の小瓶を覗くと、蓋の締まったままの瓶の中に液体がわずかながらに溜まっていた。
「あれ、さっきは空になっていたのに」
「おそらくアレクや私…この世界の者と関わったことによってその小瓶に液体が溜まったのだ。そしてお前のゲームのルールは恐らくこうだ。
『小瓶がいっぱいになった時、元の世界へ戻れるタイミングが来る』」
───夢だよ。
(夢)
誰かの声が聞こえた。
これは夢なんだ、と次いで言われて反芻する。これは、夢。夢を見ているのか自分は。
しかしこんな夢ありえないんだが、と橋爪は眉を寄せた。学生の頃学んだ精神分析学にはこんなことは載っていなかった。
「…それしか道はないんですか」
先程のウサギ耳のアレクよりは目の前の彼の方が余程まともに見える。
それでもそれを信じていいものかと嘆きに似た気持ちのまま問いかけると、彼は「ああ」と頷いた。
液体を溜めるためには、この世界の者と一定時間触れ合わなければならない、ということになる。これが夢にしても何という夢だろうか。
「ここまで教えてやったんだ。さっさと出て行け」
溜息交じりにそう言った彼の前で黙り込んだ橋爪だったが、その瞬間、周囲を取り囲んでいた青空がいきなり闇になった。
「え、あれ!?」
一瞬で切り替わった。
それはまるでスイッチを回したかのように。
橋爪は空の向こうを見遣る。すると闇の向こうには金の光が瞬いていた。夜になっている。
(どうして、何故、なんで)
「よ、夜になってる。なんで…」
「? 夜が嫌なのか」
「だっていつの間に! 夜になってるなんてありえない…!」
もうそんなに時間がたったのかと驚いて狼狽した橋爪に、彼は小首を傾げた。
「まったく…」
そして更に信じられないことが起こった。スタスタと窓際に近づいていった彼の手の中で、握っていたスパナが白い銃に変わったのだ。
あ、と驚く間もなかった。
彼は銃を宵闇に向けて一度、撃った。パン、という乾いた音と共に再び空が切り替わる。
今度は茜と朱色の鮮やかな夕方になった。
「ゆ、夕方…ッ!?」
一体どういう理屈なのだ。ただ橋爪は唖然とするしかない。
そんな橋爪に、振り向いた彼は不満そうな顔を隠さなかった。
「夕方も嫌なのか? …何だ、夜が嫌だとうるさいから夕方にしてやったんだ。夕方も嫌なら先に言え」
連射は耳が痛くなるというのに、とぼやきながら彼はもう一度銃を撃つ。
するとまたしても空は変わった。よく晴れた昼、青空へと。
「………」
もう言葉も出ない。一体どんな手品なんだ。
やはりこれは夢だな、と橋爪はぽかんと口を開いたままそんなことを考えた。
「さあこれでいいな。分かったらさっさと出て行け。私は忙しいんだ」
そう言って彼は階段へと向かっていく。
「あ、あの、あなたのお名前は」
「? 名前など知って何になる」
「…色々教えていただきました。ありがとうございました。私は紫乃、橋爪紫乃です」
彼を捕まえてそう礼を言うと、時計の彼はどこか苦いような顔をしてしぶしぶながら名乗った。
「私は尾美。尾美佑だ。時計塔の番人」
「尾美さん」
その名を口にして微笑みかけると、尾美は憮然とした表情を隠さないまま言った。
「…お前にもうひとつだけ忠告しておいてやる。この世界はお前の居たところと違い、危険な世界だ。重々気をつけることだな」
…西脇が出てこない…。
配役:
ウサギ耳宰相=アレク
無口な時計屋=エミュー
ちなみに
遊園地オーナー=三浦
自由きままなチェシャ猫=クロさん
残酷な赤薔薇の女王=紫茉さん
迷子な赤い騎士=康
な筈です。
女王と猫は逆でもいいんですがね。ちょっと都合上。
橋爪は呆然と周囲を見回した。
石造りの高い建物の最上階、その上で意識を失っていた。あの黒髪のウサギ男は何処にもいない。紫乃をこの世界に無理矢理つれてきた、人の話を聞かない変態。
起き上がって天井を見ると丸いドーム型の石造屋根が見えた。周囲をぐるりと囲むのはガラスの無い窓。
階下に至るには階段が見える。そこに目をやった途端、足音が聞こえてきた。
さてはあの、胡散臭い眼鏡をかけた長髪のウサギ男が戻ってきたのかと思った。
ところがそれに反して現れたのは、違う青年だった。
「なんだ、まだ居たのか。私は忙しいんだ。…さっさと帰れ」
濃紺の髪と瞳を持つ彼の胸元には大きな金の時計が光っていた。
うんざりしたようにそう言う彼に、橋爪は苛立ちを覚えた。
「…。帰りたくても帰り方が分からないんです。私はあの、アレクって人に無理矢理穴の中に連れ込まれて…」
「───なに!? お前、もしかして余所者か!?」
途端に彼の顔色が変わった。
仕方なく橋爪は経緯を説明した。病院の庭、木の下でうたたねをしていたら服を着て歩くウサギが現れたこと。そのウサギが人間になり、橋爪を抱き攫って穴の中に飛び込んだこと。
そして目が覚めたらこの場所に居たこと。
「…で、その…薬を飲まされて」
薬を飲まされた経緯は思い出したくもない。
あろうことかアレクと名乗ったウサギ男は、口移しで橋爪に小瓶に入った薬を飲ませてきたのだ。
「ゲームの始まりだよ」そう笑って。
その話を濁した橋爪だったが、目の前の彼はそれも既に耳に入っていないようだった。
「あの野郎…私を無視して勝手に余所者を入れたな」
そんなことをブツブツ言っていた。
「あの…ここはどこなんですか? 私は帰りたいんですけど。あなたは帰り道を知っていますか?」
「ここは不思議の国だ。お前の世界とは違う」
「…はあ?」
橋爪が尋ねると、爪を噛まんばかりに独り言を呟いていた彼がようやく顔を上げた。
「お前の戻し方は私も知らない。一人で帰ることは出来ないんだ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
慌てて手を振ると、濃紺の彼は驚くほど真剣な顔をして橋爪を見つめてきた。
こうして見ると、すっきりとした顔をしている。切れ長の目も濃紺色の瞳も、どことなく育ちの良さそうな立ち振る舞いも、硬質で清美なもの見えた。
「お前は小瓶の中身を飲んだのだろう?」
「…ええ…無理矢理でしたが」
「ここはお前の言うところの『異世界』だ。その扉を司るのが私。本来ならば、私の許可なくして異世界からの者───『余所者』は入国できないんだ」
「だったらあなたが帰してください」
「話を最後まで聞け。本来ならば、と言っただろう。ルールが破られたからお前はここに居るんだ」
「この世界はゲームで出来ている」
「……はい?」
「ゲーム。
何もかもがゲームという理(ことわり)の上にあり、何人たりともそのルールを逸脱することは許されない。
『余所者』はこの世界に本来居ないはずの者だが、ルールの遵守義務に例外はない。ルールは絶対なんだ。そしてお前のゲームはもう始まってしまった」
なんだかよく分からない。
「………」
黙り込んだ橋爪の前で、彼は信じられない言葉を継いだ。
「小瓶の薬を飲まなければ、まだ道はあったのだが…」
「! 何ですかそれ!」
思わず橋爪は彼の襟を両手で掴んでいた。
「あの変態ウサギが私に無理矢理飲ませたんですよ! 私はいわば被害者なんです! それなのに!」
「く…くるし…っ」
がくがくと揺さぶると、彼は足掻いた。見た目に反して力のある橋爪が激昂していたのだから逃れようがなかったのだろう。次第に顔を青くさせていった。
「ま、まだ、続き、が…」
「あ、すみません」
橋爪が手を放すと、彼はぜいぜいと息を切らしていた。
「………。とにかく、お前のゲームは始まった。ルールがあり、お前はそのルールに則らなければ帰れない。私は戻してやることが出来ない。そういうことだ」
「そんな!」
あっさり結論付けられて、橋爪は悲鳴のような声を上げた。
すると彼はまた掴みかかられてはたまらないと、「だからそういうものなんだ!」と後ずさって距離をとる。何かに怯えたかのような後ずさりぶりだった。
「…あれ、でもさっきはルールが破られたから私はここに居るって」
「もちろん守らなければならない。だが時折破られることもある」
「? …意味が分かりません」
「お前を連れ込むために、アレクはルールを破った。
ひらたく言えば、この世界ではルールを破り、それがあまりにも重い罪だとゲームから降りなければならない。お前たちの世界で言うと…そうだな、マッサツされるようなものか」
「抹殺ですか」
「意味は私もよく知らない。ともあれ、アレクはルールを破ったが、そこまで大きいものではなかったということだ。そしてお前のゲームに関して言えば、破れるルールはないということになる」
小瓶を見てみろ、と言われて手の中の小瓶を覗くと、蓋の締まったままの瓶の中に液体がわずかながらに溜まっていた。
「あれ、さっきは空になっていたのに」
「おそらくアレクや私…この世界の者と関わったことによってその小瓶に液体が溜まったのだ。そしてお前のゲームのルールは恐らくこうだ。
『小瓶がいっぱいになった時、元の世界へ戻れるタイミングが来る』」
───夢だよ。
(夢)
誰かの声が聞こえた。
これは夢なんだ、と次いで言われて反芻する。これは、夢。夢を見ているのか自分は。
しかしこんな夢ありえないんだが、と橋爪は眉を寄せた。学生の頃学んだ精神分析学にはこんなことは載っていなかった。
「…それしか道はないんですか」
先程のウサギ耳のアレクよりは目の前の彼の方が余程まともに見える。
それでもそれを信じていいものかと嘆きに似た気持ちのまま問いかけると、彼は「ああ」と頷いた。
液体を溜めるためには、この世界の者と一定時間触れ合わなければならない、ということになる。これが夢にしても何という夢だろうか。
「ここまで教えてやったんだ。さっさと出て行け」
溜息交じりにそう言った彼の前で黙り込んだ橋爪だったが、その瞬間、周囲を取り囲んでいた青空がいきなり闇になった。
「え、あれ!?」
一瞬で切り替わった。
それはまるでスイッチを回したかのように。
橋爪は空の向こうを見遣る。すると闇の向こうには金の光が瞬いていた。夜になっている。
(どうして、何故、なんで)
「よ、夜になってる。なんで…」
「? 夜が嫌なのか」
「だっていつの間に! 夜になってるなんてありえない…!」
もうそんなに時間がたったのかと驚いて狼狽した橋爪に、彼は小首を傾げた。
「まったく…」
そして更に信じられないことが起こった。スタスタと窓際に近づいていった彼の手の中で、握っていたスパナが白い銃に変わったのだ。
あ、と驚く間もなかった。
彼は銃を宵闇に向けて一度、撃った。パン、という乾いた音と共に再び空が切り替わる。
今度は茜と朱色の鮮やかな夕方になった。
「ゆ、夕方…ッ!?」
一体どういう理屈なのだ。ただ橋爪は唖然とするしかない。
そんな橋爪に、振り向いた彼は不満そうな顔を隠さなかった。
「夕方も嫌なのか? …何だ、夜が嫌だとうるさいから夕方にしてやったんだ。夕方も嫌なら先に言え」
連射は耳が痛くなるというのに、とぼやきながら彼はもう一度銃を撃つ。
するとまたしても空は変わった。よく晴れた昼、青空へと。
「………」
もう言葉も出ない。一体どんな手品なんだ。
やはりこれは夢だな、と橋爪はぽかんと口を開いたままそんなことを考えた。
「さあこれでいいな。分かったらさっさと出て行け。私は忙しいんだ」
そう言って彼は階段へと向かっていく。
「あ、あの、あなたのお名前は」
「? 名前など知って何になる」
「…色々教えていただきました。ありがとうございました。私は紫乃、橋爪紫乃です」
彼を捕まえてそう礼を言うと、時計の彼はどこか苦いような顔をしてしぶしぶながら名乗った。
「私は尾美。尾美佑だ。時計塔の番人」
「尾美さん」
その名を口にして微笑みかけると、尾美は憮然とした表情を隠さないまま言った。
「…お前にもうひとつだけ忠告しておいてやる。この世界はお前の居たところと違い、危険な世界だ。重々気をつけることだな」
…西脇が出てこない…。
配役:
ウサギ耳宰相=アレク
無口な時計屋=エミュー
ちなみに
遊園地オーナー=三浦
自由きままなチェシャ猫=クロさん
残酷な赤薔薇の女王=紫茉さん
迷子な赤い騎士=康
な筈です。
女王と猫は逆でもいいんですがね。ちょっと都合上。
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HN:
Kaeko
性別:
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自己紹介:
ショコラ~用日記。
西橋萌えを語ることが多いかも。
西橋萌えを語ることが多いかも。
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